「死亡した親のスマホのロックは親族が希望すれば解除できますか」。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
ネット銀行や仮想通貨などのデジタル遺産を故人が持っていた場合、パスワードが不明だと家族でもアクセスできず、相続人が資産の存在すら把握できないケースも少なくありません。
さらに、サブスクの自動引き落としが続けば遺産が目減りするリスクも。
こうしたデジタル遺産をめぐる相続で困らないために、事前にできる対策にはどのようなものがあるでしょうか。
●ネット銀行や仮想通貨も「相続財産」だが、アクセス権がないと手続きが困難
法律上、亡くなった方が保有していたネット銀行の預金や仮想通貨などのデジタル資産も、「相続財産」(民法896条)に含まれます。これらの財産は、被相続人(亡くなった方)の死亡によって相続人(この事例ではご家族)に承継されるのが原則です。
しかし、これらのデジタル資産は、アクセスするためのパスワードや生体認証といった情報がなければ、その存在を把握したり、解約・名義変更などの相続手続きを進めたりすることが極めて困難になります。
●本人専用設計が遺族によるアクセスを阻む
故人のスマートフォンやクラウドサービスは、プライバシー保護や個人情報保護法の観点から、本人専用に設計されています。そのため、たとえご家族であっても、サービス提供者である銀行や携帯電話会社、プラットフォーム事業者に対してパスワードの開示やアクセス権の付与を請求しても、簡単には応じてもらえません。
多くの場合、開示請求や相続手続きには「相続人であることを証明する書類」(戸籍謄本など)や「遺産分割協議書」といった公的な書類の提出が必要となり、その手続きに数カ月かかることもあります。
アクセス不能な状態が続けば、相続財産の調査や把握ができないという大きな「落とし穴」になり得ます。場合によっては、資産の存在を証明するために、最終的に裁判所での手続きが必要になるケースも考えられます。デジタル資産も通常の財産と同様に、生前の対策が極めて重要となります。
●具体的な対応策
このような場合に考えられる対応策としては、生前にデジタル遺産へのアクセスを確保するための仕組みを整えておくことが一般的です。
1) プラットフォームの提供する「アカウント管理ツール」の設定
Googleの「アカウント無効化管理ツール」やAppleの「故人アカウント管理連絡先」といった機能を活用し、自身に一定期間アクセスがない場合に、指定した家族にデータを自動共有したり、iCloudデータへのアクセス権を付与したりする設定をしておくことが考えられます。
2)パスワード管理アプリの「緊急アクセス機能」の利用
近年、パスワードが必要なアプリが増えるにつれ、「1Password」や「Bitwarden」といったパスワード管理アプリが普及してきています。
これらのアプリには、緊急時(アカウントの非活動化や死亡時など)に、事前に指定した信頼できる人にパスワード情報を開示できる緊急アクセス機能や類似の仕組みがあります。
これらの機能を設定し、デジタル資産へのアクセス情報を特定の家族と共有できるようにすることが有効です。
3)デジタル資産リストとアクセス情報をまとめた文書の作成
最も基本的で確実な方法としては、ネット銀行や仮想通貨取引所、サブスクリプションサービスなどのデジタル資産の名称、ID、およびそれらの情報が保存されている場所(例:上記のパスワード管理アプリのマスターパスワード)を一覧にした文書を紙または安全な形で作成し、家族にその保管場所を伝えておくことも考えられます。
この場合は、文書の盗難・紛失を防ぐため、金庫などの安全な場所に保管し、家族以外には知られないよう管理する必要があります。
(弁護士ドットコムニュース・弁護士/小倉匡洋)